佐賀県鳥栖市に、「道具の多く美や(どうぐのたくみや)」という店があります。
県道246号線から少し入った住宅街に佇む老舗。
ここではテーブルウエアに関する工芸品を扱っています。
工芸品は敷居が高いと感じるかもしれませんが、実は日常使いすることで良さを実感できるのだそう。
40年以上もこの店を営んでいる、店主の渡邉さんにお話を伺いました。
個人作家の品を多くラインナップ
以前は会社員として、食品関係の仕事をしていた渡邉さん。
「自分のペースで働きたい」と感じ、工芸品を扱う専門店へ転職。
9年ほど勤めた後、満を持して「道具の多く美や」をオープンしました。
ここでは食器全般を扱っていて、種類は陶磁器、漆器、ガラス、竹、鉄器、布など多岐に渡ります。
個人で活動する作家のアイテムが多く、九州では珍しいものばかり。
「これぞ!」と思う作家がいれば、自ら現地へ足を運んで仕入れの交渉をしています。
「もう40年以上もお付き合いが続いている作家さんもいるんですよ」と、渡邉さんは穏やかな笑みを浮かべて教えてくれました。
日々の暮らしを豊かにする生活工芸
渡邉さんが商品を選ぶ上で大切にしているのは、「生活工芸」という分野です。
生活工芸とは、毎日の暮らしに馴染み、違和感なく使い続けられるもののこと。
同時に、工芸を日々の生活に取り入れることも指します。
渡邉さんは一つ一つのアイテムに、日常性があることを重視しているのだそう。
「多くの人は漆器や鉄器に憧れを抱いて購入しますが、いつの間にかしまい込んで“家のお宝”になるケースが少なくありません。でも工芸品の魅力は、使い続けることで実感できるものなんです」
両手で包み込みたくなる漆器の温もり
例えば漆器は、天然塗料である漆を何度も塗り重ねて仕上げます。
漆が乾く速度はとても遅く、温度や湿度を調整した部屋でじっくりと乾燥させていきます。
完全に乾いた漆に触れてもかぶれることはなく、使ううちに自然とツヤが増していくのが特徴。
漆器は、ふわりと柔らかくしっとりした手触りで、ほかの素材にはない温もりに満ちています。
熱を伝えにくく、熱々のお味噌汁を入れても「熱くて持てない!」ということはありません。
抗菌性にも優れているため、食器にうってつけのアイテムなんです。
大切に使い続けられるよう金継ぎも対応
また、陶磁器も経年変化が楽しめる逸品。
陶磁器には貫入(かんにゅう)というヒビ割れ模様ができるものがあり、時間が経つと料理や飲み物の色がついて表情が変わっていきます。
「陶器はすぐに割ってしまいそう…」という人もいるかもしれませんが、「道具の多く美や」では金継ぎなどの修理も対応。
店を訪れる多くの人が、修理をしながら大切に使い続けているそうです。
「調理するだけで鉄分補給になる」と注目の鉄器も人気のアイテム。
お手入れが難しそうなイメージがありますが、実はとても簡単なんです。
ポイントは、使い終わった後でしっかり乾燥させることと、洗うときに洗剤を使わないこと。
鉄器は油が馴染むほど使い勝手が良くなるので、洗剤を使うと必要な油分も一緒に流れてしまうのです。
実は多機能で理にかなった品々
大切に使えば一生愛用できる、特別感のある工芸品。
でも昔の日本人にとっては、ごく普通の日用品でした。
「使うだけで鉄分が取れたり抗菌作用があったりと、昔の人は理にかなったものを使い続けていました。古くから続くものを忘れず、今に伝えていくことを大切にしていきたいです」
そう語る渡邉さんは、2001年から自身で漆の植栽もしているのだそう。
「鳥栖漆会」と名付けられた団体は、2021年に活動をスタート。
現在は植栽以外に、漆を使った染め物やお菓子づくりなどさまざまな取り組みを続けています。
日々の営みの中で生み出されてきた工芸品の数々。
樹脂製のものに比べたら、少しだけ手間がかかるかもしれません。
でも手間をかけることで愛着が湧き、それはやがて、心の豊かさにもつながっていきます。
日常のスピードを少し緩めて、なんでもない毎日を穏やかに楽しみたい。
そう思う人にこそ、ぜひ訪れてほしい名店です。
POINT■店舗情報
店名:道具の多く美や
住所:佐賀県鳥栖市曽根崎町1229-2
電話番号:0942-83-1941
営業時間:11時~17時
定休日:不定休
Instagram:こちら
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